2020.01.03 / BLOG
AUTHOR / 西村 佳隆
こんにちは、日本医療デザインセンターの理事で体験デザイナーの西村佳隆です。
今回は、先日私が経ってからの希望で、鹿児島の介護事業所『ユニティ』に訪問してまいりましたので、そのときのレポートをお送りします。
「この人に会いたい!」と朝5時前に出発。
実はワクワクして朝の3時過ぎに目覚めてしまい、眠い目をこすりながらの出発。そして桜島の噴火口を見ながら鹿児島空港に着陸した1時間後、「こんにちは!」とユニティ濵田社長の豪快な笑い声に迎えられた。
さかのぼること約2週間。
経産省認定経営革新支援機関向けの新規事業講座にて、その講師ビジネス・コア・コンサルティング社の坂本社長(’80年代にアメリカ横断しながら、各所のジムをウエイトリフティングで“道場破り”して回ったムキムキマン!)が語ってくれたことが、その発端。
「鹿児島県霧島市にある介護事業所がすごいんだよ。施設内通貨を導入していて、その評判から、どんどん拠点をオープンしているんだけど、利用者の待機が途切れないんだよ。」
「“貢献したい”というのは人の本質だね。認知症になっちゃった元大工さんなんかは、大工仕事を鮮やかに済ませて、施設内通貨を楽しく稼いでいるらしいよ。」
「その施設内通貨ってね、使い方の設定が面白いんだよ。普通に飲み物を買ったりできるんだけど、カラオケを利用しようとすると、とっても“高い”んだって。それは、“みんなで楽しんでほしい”という考え方から、みんなで通貨を出し合わないと使えないほどの高い値段に設定されているんだって。」
「これは面白い!(日本医療デザインセンター的に言うと、“行動デザイン”として面白い)」ということで、講義後の休憩時間に早速ムキムキの坂本社長に「おつなぎ頂けませんか?」とお願いし、年末の忙しい時期にもかかわらず押しかけることに。
ユニティ濵田社長、ありがとうございます!
そこでこのレポートは、あえて“行動デザインのツールとしての通貨”という視点で書かせて頂く。
濵田社長の想いは、
『介護は、その人を輝かせるのが仕事。その方の生き甲斐を作るのが仕事。施設内通貨はそのツールでしかない。』
とおっしゃっていたのだが。
「認知症が進むと、まず取り上げられるのがハンコと通帳。」
これはしょうがないことなんだけど、当事者からすると“自己決定”や“自己選択”の機会が奪われてしまった状態。
だからこの通貨は“お金と同様”に大切に扱われている。破れたものはテープで丁寧に補修されているし、利用者さんの“札入れ”にきっちり収められている。
「生き甲斐につながっているんだと思う。」
これが、
「利用者さんに一番喜ばれているポイントはなんですか?」
と尋ねた場面での答え。
実はこのことが負の作用につながることを教えて頂いた。
「みんな大切に貯めるんですよ。」
「そうするとね、何が起こると思いますか?」
「インフレ。」
おっと!
施設内通貨という規模でもそういうことが起きるんだ!
他の介護事業所でも施設内通貨を導入しているところは、ある。
しかし、その運用をやめてしまうところも少なくないらしい。それは、みんなが貯めに走って、インフレになって、だんだんもらっても嬉しくなくなり、消滅。みたいな感じだって。もともと日本円は持っている方々ですからね...
つまり、運用時のキモは“使わせること”。ここ!
まさに行動デザインのためのツールだ!
そして“いかに楽しく使ってもらうのか”について、スタッフの皆さんが、知恵を絞っているらしい。
利用者さんの“自分史”まで踏み込んでヒアリングし、その方が何が得意で何が好きで、どうすれば喜んでもらえるのか、を一生懸命考える。
(お!これはスタッフのみなさん自身もどんどん成長する仕組みでもあるゾ!)
施設内通貨でしか買えない特製Tシャツ。日本円では買えないので特別感が出る。
また、“VIPイベント”も時々実施してゴッソリ吸い上げるそうな。(雑な表現ですみません...)もちろん利用者さんがやりたくなるようなことを考えださなくてはいけないのですが。
この、
また、スタッフからの提案だけではなく、利用者さんからもイベントなどを提案できる。
このような取組みによって、ここユニティでは、介護度が進まないばかりか、ユニティを卒業(回復)してボランティアとして関わる方もいる!
あと大切なこととして、どうやって“値付け”がされているのか?も質問。
結論から言うと、値付けは“頑張り度合いとやったことへの価値づけ”。
同じことをやっていても、介護度が違うと、その頑張り度合いが違う。だから介護度が進んだ方は、比較的簡単な仕事であっても、頑張っているので稼げる!という設定。
ここで、
“何で稼いで、何に使っているのか”を紹介すると、
〇稼ぐ:施設内の仕事、自主訓練、社会参加活動(掃除やボランティア)
〇使う:屋外イベント(おでかけ)、施設内の飲み物、利用者発案企画、ウォーターベッドでのマッサージ(←うらやましい~)、近所の子どもへのお小遣い
うかがった拠点の1つ“リハケアガーデン国分”では、施設内に駄菓子屋さんがあって、近所の子どもが自由に出入りできる。ここに出入りする子どもたちに、じーちゃんばーちゃんがお小遣い(施設内通貨)をプレゼントしている。
すると、地域のバザーに出店したときにこのようなことが。
「あのおばあちゃん、知ってる。デイケアで見た!」
と子どもが言ってるシーンが。
子どもが出入りする介護事業所って、聞かない。
施設内通貨をきっかけにしたコミュニケーションが、子どもがいる家庭や地域のイベントに広がってきている!
濵田社長の同級生が経営する保育園とも、この通貨を導入しようという相談を始めた、とのこと。“保育園児がばーちゃんにオレンジジュースをご馳走する”なんていうほほえましいシーンがもうすぐやって来そう!
実は私と濵田社長が話し終わって立ち上がったときに、社長がひとりのスタッフに声をかけていた。
「あの保育園との通貨の話、進めよう!」と。
「もう“施設内通貨”と呼ぶのをやめよう!」
と西村の方を見て、また豪快に笑ってた。私の訪問が、地域通貨へ踏み出すそのきっかけとなったようだ。とても嬉しい!
“愛情”という言葉をつかうと、ガラにもなくてこっぱずかしいのだが、
“愛情がベースにある通貨”
“貢献と感謝の循環を促す仕組みの通貨”
こんなことを感じた一日!
ユニティのSHIP活用による<稼ぐ>と<使う>の相乗効果が生まれる“貢献と感謝の循環を促す仕組みの通貨”循環図:西村佳隆
ランチに向かう車の中では、
「世田谷ベースみたいな、男だけのケアセンターを作るんだ。」
「そこではドラム缶で焚火してて、そこに突っ込んだ木の棒でタバコに火をつけてるんだよ。」
という濵田社長と、
西村は、
「そこでジェットエンジンを積んだチャリンコを作るわ~!」
「『あのジジイ、やべぇ~!』って言われたい!」
と大笑い。
お忙しいのにお話頂いた濵田社長、お仕事中におじゃましたスタッフのみなさん、笑顔で歓迎してくれたご利用者の皆さん、おつなぎ頂いた坂本社長、ありがとうございました。
株式会社ユニティ
https://www.unity-g.com/